Web Site Photo Essay Series “Shimura Hiroshi Cambridge Journal”
ケンブリッジ通信
  
第10号 ・ 2002年2
月24日発信 ・ 24 February 2002 Issue・Vol.10


英国ケンブリッジに永住し、シルクスクリーン版画作家・映像アーティスト・ビデオ・エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、グランチェスターのアトリエから発信する “イギリス在住 映像エッセイ”


発信元/写真・文・デザイン: 志村博



ケンブリッジ通信10号 記念増刊版



フリージング・フォグ-霧が凍った朝に

恥かしがり屋の馬が寛ぐ牧場の風景


スノードロップ-早春に咲く雪の雫花




フリージング・フォグ‐霧が凍った朝に





●上の写真にカーソルを合わせると映像がロール・オーバーします。




夜明け前、
気温が氷点下に急降下し霧が流れる
とき、地表だけでなく木の枝にまで霧が凍りつく。
フリージング・フォグ、
すなわち霧氷である。 このような夢幻光景はなかなか見ることが出来ない。
近年、ケンブリッジで霧氷が起こるまで気温が下がる夜が少なくなった。 その上、温度だけでなく、
湿度、風速、天候などが、絶妙なバランスで夜明けにならないと現れない“幻想の冬景色”である。





●上の写真にカーソルを合わせると映像がロール・オーバーします。


霜にはグランド・フロストとエアー・フロストがある。 グランド・フロストは地表の温度が氷点下に下がり、
地表付近の空気が冷やされ、大気中の水蒸気が、地表近くのものに氷結する
現象である。 気温が、
零度以下にならなくても、 放射冷却で地表温度が下がれば、初秋から晩春まで、いつでも起こり得る。
エアー・フロストは気温が氷点下に下がった時に、地表だけでなく、地上のものにも水蒸気が凍りつく。

ケンブリッジのある東アングリア地方は、平坦な土地柄で山はない。真冬に雪が舞うことがあっても、
積雪はめったにない。 霜で真っ白になった
風景が、皆の憧れの冬景色である。 しかし、白銀霜景色は
長く続かない。 気温が上がれば刻々と薄れ、午後まで残ることは滅多にない。儚い夢の光景なのだ。
冬枯れの雑草も白く輝き、見慣れた庭が一夜にして真っ白な“お伽話しの国”に変貌し、そして、消える。




霜は形成時の気象条件によって異なる光景を作る。 大気中の水蒸気が地表のものに凍りつく時の
気温や湿度によって氷の結晶の形が違っている。 近寄って見みると、砂糖のざら目のような粒状や、
針状、扇状などがある。 結晶どうしが、組合わさって“固まり”になるときも、その形状は様々である。
結晶は大きく肉眼で見えるが、朝日に煌くダイヤと言うよりは、大粒の砂糖をまぶしたお菓子に近い


牧場の草は、冬の間も枯れることはない。 牧草と緑と、霜の白の混合色は、霜がとけるに従い変化する。
グランド・フロストも、地面に落ちた枯葉や、地表に近い葉に、美しい化粧を施す。 細かい霜の結晶は
葉脈や葉縁に沿ってつき、微妙な陰影を浮き上がらせ、白いレース状の縁取りを付ける。 全てを
白く
覆う雪景色とは違う。 思えば、霜柱は見たことがない。 大気と地中の
湿度バランスの違いであろうか。




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恥かしがり屋の馬が寛ぐ牧場の風景







今から数年前の事だった。 アトリエの前に広がるフィールドの一角に柵が作られ“牧場”になった。
それまでは、毎年植えられる作物が変る畑だった。 麦、菜種、甜菜、そら豆などが植えられていたが、
そら豆は収穫されることはなく、鋤きこまれた。 肥料散布を行わず土地の疲労を防ぐ伝統農法である。
簡単な柵なので、牛の放牧でないことは解ったが、果たしてある晩夏の夕方、3頭の馬がやってきた。

馬は英国史の中でも、重要な役割を果たしてきた。 農業、軍事、運搬、その他、動力として広く使われ、
百年前までは約100万頭が、飼われていた。 しかし、19世紀以降少しずつその役割を“機械”に譲り、
現在は数万頭にまで減ってしまった。 しかし、改めて有用性が評価され、現役で働く馬も多くなり、
頭数は増えている。 近くに乗馬スクールもあり、乗馬を楽しむ人も多く、ペットとして飼っている家もある。

この牧場では夏の終わりから冬にかけて、馬が2-3頭放牧されて草を食んでいる。 時々迎えが来て、
姿を消すが、気が付くとまた戻っている。 ここは馬たちの休息所らしく、牧場内で乗り回す事はない。
ゲートはアトリエと反対側にあり、飼い主と出会う事はないが、馬たちとはすぐに“知り合い”になった。
2階の窓からは、牧場を見下ろせたし、私が庭に出ると馬たちはすぐ気づき、私の方に寄って来る。

馬たちがいる季節は、庭のリンゴの木の下にたくさん実が落ちるので、それを拾っては牧場に投げる。
少し酸っぱい料理用の大粒リンゴを、馬たちは丸ごと美味しそうに食べる。 小気味良い食べっぷりだ。
馬たちは私に慣れて私の手からリンゴを齧り、鼻を撫でられることも平気になった。 しかし、私がカメラを
向けると、大きな目を見開き、緊張する。 川辺の暢気な牛たちとは違い、繊細で、恥かしがり屋なのだ。




ここ数年、夏から冬の半年、毎日のように馴染んできた“恥かしがり屋の馬のいる風景”と別れの時が
来たのかも知れない。 今年の1月まで、この牧場に 2頭の馬が放牧されていたのだが、2月になって、
馬たちの姿が消えると同時に柵の杭が抜かれてしまった。 また、元の畑に戻る時期が来たのだろう。
次に馬たちの寛ぎ牧場は、どこに移るのだろうか?昔のように農道の反対側の区画に戻るのだろうか?


 
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スノー ドロップ早春に咲く雪の雫花



 



1月から3月にかけてスノー ドロップは、雪のような白い花を咲かせる。春の兆しを告げる花である。
スノードロップは、イギリスではスコットランドの一部を除く、ほとんど全土で自生している多年草で、
不思議なことに、隣国アイルランドにはまったく自生していない。 地域や種類によって開花時期は
異なるものの、暖冬の年にはクリスマス時期に咲くこともあり、温暖なイギリスの冬を象徴している。

森の中に多く自生しているが、庭のあちらこちらからも、植えもしないのに1月になると顔を出す。
庭仕事をしていると、白い球根がざくざく出てくるので始末に困る程で、種の飛散でも広がるらしい。
花は2重に3枚ずつ計6枚の花弁からなり、内側の花弁には緑色の斑点がある。 花の形も様々で、
涙形、横に広がるカール形、照る照る坊主形などがある。 蕾みは上向きに伸び、花は下向きに咲く。

和名では“松雪草”と言うらしいが、日本では一般に馴染みの薄い花である。 数年前ケンブリッジに
長期滞在した経験のある日本の友人は、この花を懐かしみ地元で球根の入手を試みたが見つからず。
ついに、 イギリスから個人輸入をした。 しかし、最近のガーデニング・ブームで、日本の園芸店でも
市販されるようになったらしい。 毎年、日本での開花の便りが届き、イギリスの春の様子を訊ねてくる。

最近の話題の一つは“春の訪れ”の早さである。 今年も暖冬傾向が強く、全く積雪を見ずに、冬が
終ってしまう可能性が大きい。 本格的な寒波はもう十数年も経験していないし、ケム川の凍結もない。
2月上旬、既に春の鳥たちの囀りも始まった。 例年より2週間早い現象だと“地方ニュース”は報じた。
年々この傾向は顕著になっており、地球温暖化が確実に、しかも急速に進んでいる証しかもしれない。




春の兆しを告げる花は“スノー ドロップ”だけではない。 冬咲きアコナイト(とりかぶと)が、殆ど同時に
黄色い花をつける。 少し遅れて薄紫色のクロッカスの花が開き始め、 2月の初めから咲く水仙も多く、
早春の野は、色とりどりに始まる。 まだ、冷たい風が吹き、寒い日もあるのだが、小春日和の陽だまりでは、
冬眠から覚めたミツバチが花の間を飛び回っている。 虫たちの大事な冬眠明けの“食卓”でもある。




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