Web Site Photo Essay Series “Shimura Hiroshi Cambridge Journal”
ケンブリッジ通信
  
第14号 ・ 2003年3
月15日発信 ・ 15 March 2003 Issue・ Vol.14


英国ケンブリッジに在住し、シルクスクリーン版画作家、映像アーティスト、ビデオ・エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、日々の生活に根ざしたテーマを、映像と文章で綴る“映像エッセイ集”


発信元/写真・文・構成: 志村博



混乱と歓喜をもたらした10年ぶりの積雪

クロッカスが告げる レント・ターム春到来


オーロラ光揺らめく 北極上空幻想飛行




混乱と歓喜をもたらした10年ぶりの積雪





●上の写真にカーソルを合わせると映像がロール・オーバーします。


2003年1月30日夕刻から降り始めた雪は一晩中降り続けた。 確かに雪の予報が出ていたのだが、
よく朝、目覚めた人々は、外に広がる一面の銀世界に驚いた。 実に、約10年ぶりの積雪である。
ケンブリッジの積雪は、僅か10cmほどでしかなかったのに、すでに大変な騒ぎを引き起こしていた。
朝のニュースは、積雪による混乱を報じ、学校は臨時休校、車での外出を控えるように訴えていた。

突然の積雪に、慌てふためく様は東京の比ではない。 ロンドンとケンブリッジを結ぶ高速11号線では、
スリップ横転した大型車輌が車線を遮断し、撤去に時間を要した為、多くの人が車内に閉じ込められた。
31日午後、私は車で街に出かけた。
いつもに比べ交通量は極端に少なく、休業している店が目立つ。
目指す銀行まで閉まっている!呆れた。 車通勤が控えられたためらしいが、僅か10cmの積雪である!

それでは、学校や会社に行くことをやめた人々は何をしていたのだろうか? これは幸いと、多くの人は
雪と1日戯れた。 私も、時間の許す限りカメラを持って歩き回り、雪景色を写真に収めた。 至る所で、
雪遊びの家族や、雪見物の人々、カメラマンと出会った。 ケンブリッジで雪が積るのは、それ程珍しい
“出来事”なのである。 混乱と歓喜をもたらしたこの積雪は、2日後には跡形もなく、溶けてしまった。

近年の地球規模での温暖化や、地形もあるが、イギリスの冬は高緯度にも拘わらず暖かい。 これは
イギリス全島を包み込むように押し寄せる暖流の影響である。 冬季の日照時間は少なく昼間の気温は
上がらない。 しかし、夜の冷え込みは概して緩い。 真冬でも雪が降る事は珍しく、積雪は稀である。
冬の間も芝生は緑を保ち、牧草や麦はゆっくり成長を続ける。 ヨーロッパは内陸部ほど寒さが厳しい。



雪が降った翌朝、待ちに待ったグランチェスター雪景色を撮影しようと、カメラ・バックを担ぎ
出かけた。
見慣れた風景が一面の銀世界に変っていた。
冬木立は白い花を咲かせたようになり、外のテーブルに
積った雪は、柔らかい
スポンジ・ケーキのようで、見飽きなかった。 メドーの丘では、家族が雪と戯れ、
フット・パスは人出も多く、みんなカメラを持って歩いている。 誰にとっても、忘れ得ぬ1日になっただろう。



午後、ケンブリッジ市内に出かけた。 所要を済ませた後、川沿いの公園やカレッジの庭を歩いた。
夕方になって、青空は雲で覆われてしまったが、積雪の白が、風景を明るく浮かび上がらせていた。
色彩を抑えたモノクローム光景は、水墨画の趣がある。 夕方なのに雪見散歩している人が多く、
手にしたカメラで雪夕景を撮影していた。 画架を立て、油絵を描いている人までいたのには、驚いた。


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クロッカスが告げるレント・ターム春到来





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春の訪れを祝う祭り“イースター”はキリスト教では重要な宗教行事“復活祭”である。 イースター前の
40日間はレント(Lent)と呼ばれる断食期間で、ケンブリッジ大学では冬休みとイースターの間の学期を
レント・タームと言う。 今日のイギリスで、断食をする人はいないと思うが、学生達は次の試験学期を控え、
重圧がのし掛かってくる学期でもある。 そんな季節、カレッジの裏庭ではクロッカスが春の到来を告げる。

クロッカスの“群落”
で一番気に入っているのが、トリニティ・カレッジ・バックス(裏庭)の並木道である。
毎年2月になると、並木道に沿った芝生の一定の幅に、クロッカスの花が、ばら撒かれたように顔を出す。
花壇のように、規則的に植込められていない。 夏から冬にかけては、普通の芝生と区別がつかない。
花の色は白、紫、橙があるのだが、圧倒的に白が多く紫が所々混じり、橙は少ない。自然の状態に近い。



緑の芝生に、クロッカスの白と紫の彩りは、2月中旬から3月中旬にかけて長く続く。 3月上旬からは、
芝生の緑と、水仙の黄との配色にゆっくり入れ替わってゆく。 概して開花期間は長く、春彩りは続く。
イギリスの春は一進一退である。 春の訪れは早くても、気温が上昇して行くペースは、とても遅い。
イースター休暇も終り、5月になるまで、冷たい風が、時おり吹きつけることを、覚悟しなくてはならない。





 
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オーロラ光揺らめく 北極上空幻想飛行





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日本とイギリスの間を、頻繁に往き来するようになって久しい。 交通手段は、欧州と日本を最短で結ぶ
“北極周り航空便”である。 冬の季節、日本に向うフライトでは、北極のオーロラ帯を通過するときに、
飛行機の窓から“オーロラ”が見られることがある。 午後早い時間に、欧州を飛び立った飛行機は
約5時間程で北極圏上空に達するが、地球の自転に逆らって飛ぶので、ちょうど“真夜中”頃になる。

真冬の時期、北極圏は24時間明るくなる時はない。 あるとき、窓の外で仄かに揺らめく光に気付いた。
北極圏上空に到る頃は、夕食も終り機内の照明は暗く落されている。 殆んどの乗客は寝ているか、
映画を見たり寛いでいる。 ブラインドを上げて外の光に目を凝らした。 窓ガラスに映る機内の照明を、
毛布で遮り、目を暗さに慣らした。 外の光は明るさを変えながら、揺らめいた。 紛れもなくオーロラだった。

オーロラは太陽の黒点活動と関連があり、いつも現れるとは限らない。 上空1万メートルを飛ぶ航空機
からならば、雲などの影響を受けずに、オーロラは高い確率で見られる。 見渡す限りの地平線に広がる
明るいオーロラ光に出会ったことがある。 北シベリア大地に広がる
凍河の風景も、極光に照らし出され、
素晴らしい“幻想光景”であった。 ビデオ・カメラで撮影を試みたが、極光を写し撮る事は出来なかった。

地上を照らす程のオーロラは、めったに遭えないが、今年はオーロラが多く現れる年周期に当るらしい。
そのせいか、今年1月と2月の日本行きフライトでは、2回ともオーロラが見られた。 しかも、今回は運良く、
一眼レフ・デジカメ(EOS-1D、1Ds)を持参していた。 カメラの高性能を活かしつつ、撮影を試みるうちに、
モニター画面に鮮明な映像
が浮かんだ。 ついに、飛行中の航空機から“北極オーロラ光景”を捉えた。



2003年1月12日、展覧会の準備のため、アムステルダム経由の“KL-861便”で日本に向かっていた。

北極上空に達した頃、もしやと思い窓のブラインドを上げた。 淡い光のオーロラが広がっていた。
しばらく見惚れていたが、“EOS-1D”をとり出した。 機内の光を遮る工夫をしながら、撮影を試みた。
感度を1600まで上げ、F2.8、露光8秒で、うす緑色のオーロラが画面に浮かんだ。 感動の一瞬だった。



2003年2月3日、展覧会直前、EOS-1Dsを持って成田行きヴァージン航空・エアバス機に乗り込んだ。
飛行中、北向きになる窓側の座席に座り、北極圏に達する辺りから、窓の外を、時々気にしていた。
オーロラ帯に達した頃、一旦は暗くなった空に、光が見え始めた。 運良く再び極光に出遭えた。 しかも、
今回のオーロラは、カメラのモニター画面にオレンジ色に浮かび、極北の空に揺らめく炎
のようだった。


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