Web Site Photo Essay Series “Shimura Hiroshi Cambridge Journal”
ケンブリッジ通信
  
第19号 ・ 2004年6
月20日発信 ・ 20 July 2004 Issue・ Vol.19

英国ケンブリッジに在住し、シルクスクリーン版画作家、映像アーティスト、ビデオ・エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、日々の生活に根ざしたテーマを、映像と文章で綴る“映像エッセイ集”


発信元/写真・文・構成: 志村博



百花繚乱、伝統のメイボール・ファッション

グランチェスター、静寂と喧騒に時の流れ

追撃ボートレース、女子メイバンプの勇姿





百花繚乱、伝統のメイボール・ファッション






●上の写真にカーソルを合わせると映像がロール・オーバーします。




今年の6月上旬から中旬の“メイウィーク”は、素晴らしい天気が連日続いた。 この様なことは珍しい。
“メイウィーク”(May Week)とは、ケンブリッジ大学の学年末試験が終った後の一定期間を、意味する。
試験が終る時期が、少しずつ遅くなったので、いつのまにか6月になってしまったが、「5月の週」と言う。
この時期は、試験から開放された学生たちが、思い切り羽を伸ばす。 学園都市が華やぐ季節である。

メイウィークに学生たちが主催する行事は、スポーツ・芸術関係、ガーデン・パーティなど様々であるが、
その中で最も大掛かりで華やかなのが、各カレッジの学生が主催する“メイボール”(May Ball)である。
“メイボール”は、それぞれのカレッジによって規模は異なり、開催しないカレッジも多い。 歴史の古い
カレッジの学生たちは伝統と格式に則り、かつ斬新なテーマを掲げ、盛大な現代の“大舞踏会”を催す。

今日に到るまで、ビデオ・エッセイ番組など、様々な機会でケンブリッジ大学・学年末に繰り広げられる
華麗な伝統行事を紹介してきた。 ケンブリッジ通信・第3号にも、テーマの一つとして取り上げている。
今回は初めて、女性のドレス・ファッションに注目して撮影してみた。 男性は、お決まりのタキシード姿、
100年以上も昔から、ほとんど変っていない。 しかし、女性のドレス姿は、ここ数年で、大きく変ってきた。

本格的なメイボールは、数夜にわたり、いくつかのカレッジで開催される。 毎夜、午後8時頃になると、
メイボールに参加する男女が、正装して街の中心部をそぞろ歩き、カレッジの門に美しい行列をつくる。
中でも 、女性たちのドレス姿は、ゆっくりと暗くなる初夏の夕べに、花が咲いたような鮮やかさで浮ぶ。
伝統的なドレス・スタイルに、新素材や斬新なデザインが加わり、より優雅に、個性的にもなってきた。



正装した女子学生たちは、普段の姿からは想像できないくらい変身して、別人のように妖艶で美しい。
毎年、大胆になってゆくファッションにも、伝統的な落ち着きがあり、着こなしも自然で、堂々としている。
ちょっとした仕草にも自信が感じられ、男性と対等に渡り合うイギリスのエリート女性の片鱗も伺える。
私の無遠慮なカメラ攻勢にも、彼女たちは、たじろぐことはない。 久しぶりのスナップ撮影を、楽しんだ。



一晩中、飲み食べ踊り明かした学生たちは、記念撮影をして朝の街に散ってゆく。 朝光に照らされて、
多少の疲れをにじませながらも、徹夜明けとは思えない元気さで、路上でも川面でも、はしゃいでいる。
例年だと、早朝の冷気で、寒そうに肩を抱き合って歩くカップルを見かけるのだが、今年は朝も暖かい。
女性が男性のジャケットを拝借して肩にかける、お馴染みの“メイボール徹夜明け姿”は、少なかった。




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グランチェスター、静寂と喧騒に時の流れ





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この10年程の間に、グランチェスターを訪れる人の数が急激に増えた。 よく言えば、人気が急上昇した。
夏季だけではなく、四季を通じ、週末と好天気が重なれば、メドーには田園を楽しむ人たちが押しかける。
フット・パスを歩き、ケム川をパント(平底舟)に乗り、そして車でやってくる。 以前には、決して見られない
光景であったが、村を走る1本道の両側は、駐車する車が占領し、すれ違えなくなった車が渋滞を起こす。

昨年、ここから約1キロほど離れた地域に、宅地開発申請がなされた。 ケンブリッジとグランチェスターの
間に広がるグリーン・ベルト(宅地規制地帯)の一部解除が必要なため、反対運動が起きた。 案の定、
申請は却下されたが、都市に隣接する広大な緑地帯には、絶えず開発圧力がかかる。ケンブリッジ市も
グランチェスター・メドーの重要性を再認識して、牧場を通るフット・パスの大掛かりな整備を、最近行った。

グランチェスターを訪れる人が増えたことは、うれしいことであり、責任の一端は私にもある。 この10年の
気候変動も影響しているかも知れない。 今年の春は、とくに異例であった。 気温が高く、晴の日が続き、
素晴らしい陽気は、初夏まで続いた。 7・8月の最盛期のような賑わいが、すでに4月から始まり、メドーや
ケム川は人々の喚声に包まれた。 観光地のような喧騒に、かつてのグランチェスターの面影は消えた。



このグランチェスター・メドー(Grantchester Meadows)は、公園ではなく、公共緑地(Common)でもない。
れっきとした私有地で
、牛を放牧する牧草地(Meadow)である。 人々はグループで大挙してやってくる。
ピクニック用のバスケットと
携帯バーベキュー・セットなるものを持ち込み、日がな一日のんびり過ごす。
あるグループは音楽に合わせて踊り、喚声や笑い声が響き焼けたソーセージの匂いがあたりに漂う。


そんな
今年の5月下旬の日々、私は未明のグランチェスター・メドーに立った。 午前4時半ころ朝日が
東の地平線から
昇り始める。 うす暗い牧場に柔らかい光の帯が射し込み、川面を流れる霧を照らす。
牛たちは草上でまどろみ他に人影はなく喧騒に包まれる昼間のメドーとは“別世界”が広がっている。
朝の冷気が心地よく
、鳥のさえずり以外は何も聞こえない“静寂”が支配する。 至福の時が過ぎてゆく。


頻繁に美しい朝焼けや川霧が見られることはない。 微妙な気象条件によってしか霧が発生しないし
そこに金色の朝日が射し込むとなると
、もっと確率が低い。 仔細に気象予報を検討しても、定かでない。
夜中に仕事をすることが多く、未明になって東の空を眺める。
この時期、午前4時前に白み始めるが、
朝焼けの予兆を感じると、カメラを持ってメドーに出かける。
“夢の光景”に出会えることを祈りつつ、、、



追撃ボートレース、女子メイバンプの勇姿





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メイウィークのスポーツ行事で、
もっとも重要、かつ伝統があるのが、“メイバンプ”(May Bumps)である。
ケンブリッジ大学のスポーツ活動の中で、
ボート(Rowing)が、一番人気であり、学部学生の約8割が、
参加しているらしい。 “メイバンプ”は、毎年6月上旬にケム川の下流域で展開される、カレッジ対抗の
“追撃ボート・レース”である。 その奇妙なレース展開やルールは、大学人以外には、知られていない。

曲がりくねった川幅の狭いケム川に、一定間隔で縦に並んだボート十数艇が、全力で疾走して、前の
ボートを追いかけ、実際にぶつけるユニークなボート・レースである。 詳しいルールは、私が作成した
ビデオ・エッセイ「早春疾走!ケム川ボート追撃戦」(2001年2月・朝日ニュースター放映)で紹介した。
“追撃ボート・レース”とは私の命名であるが、3月と6月
の2回開かれる勇壮なエイト艇追撃戦である。

毎年、知人が出場するわけでなく、贔屓のカレッジがあるわけでもない。 私にスポーツ観戦の趣味は、
ないが、この追撃ボート・レース(Bumps)だけは例外である。 大砲の轟
音でスタートする各艇漕手は、
目の前を、必死の形相でオールを握り追撃する。 前ボートに追いつき、ぶつかりそうになると、岸から
観戦する学生たちの喊声が川面に響きわたる。 そんな興奮と迫力のレースが4日間繰り広げられる。

私がこのレースを時々観戦するようになって30年近く経つが、
初めの頃、女子のボートは少なかった。
その上、男子は8人漕手、女子は4人漕手のボートだった。 まだ、当時は男子カレッジが圧倒的に多く、
女子学生が、少なかったこともある。 その後、次々とカレッジが共学になり、ついに女子学生の方が、
男子学生を上回った。 現在は男女ともに、8人漕手(Eight)で、男子は約100艇、女子は70艇になった。



女子艇のレースは、男子艇に比べるとやや速度が遅いが、追撃戦は単に“スピード”を競うわけでなく、
ぶつけ、ぶつけられる迫力は、同じである。 Divisonの低いレースでは、勝負より
扮装を凝らす艇も多く、
微笑ましい。 初夏の風を切り、形振り
構わず疾走する彼女らの姿は、たくましく健康的で格好良い。
メイボールでは、ドレスアップして“優美”に変身する彼女たちの、もう一つの“勇美”な姿が
ここにある。


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