Web Site Photo Essay Series “Shimura Hiroshi Cambridge Journal”
志村博のケンブリッジ通信

第 2号 ・ 2000年 2月7日発信 ・ 7 FEBRUARY 2000 ・ No.2






カレッジの裏庭“バックス”に春の訪れ


ケンブリッジ市はロンドンから北に約90km、ケム川沿いにある人口約10万の地方都市である。
世界的に有名なケンブリッジ大学があることから“学園都市”とも呼ばれる。

ケンブリッジ大学は伝統的な“カレッジ制度”を現在に引き継いでいる。
街の中心にはケム川が流れ、 川の東岸には有力なカレッジの歴史的な建物が並ぶ。
川を挟んだ対岸には“バックス”と呼ばれる各カレッジの裏庭が連なる一角がある。
毎年、2月下旬になるとバックスの通路の両側は一面のクロッカスが咲き乱れ、
3月半ばになると水仙の黄色い花が至る所に顔を出してくる。 花壇の寄せ植えとは違い、
芝生のあちらこちらから不規則に、また一面にばら撒いたように花が咲き誇っているのが良い。


2000年2月6日 志村博  グランチェスターのアトリエにて、



 バックスは街の中心から、徒歩でわずか数分の距離にある。 カレッジの裏庭として、広い芝生や
小路に沿った並木、 手入れの行き届いた庭園があり、市内でありながら心休まる場所である。




春を呼ぶ、二つのカレッジ対抗レース


 


年が明けて、春のイースター休暇までの学期をケンブリッジ大学では“レント・ターム”と言う。
この1月から3月のレント・タームは春遠からずとは言え、まだ寒い日が続く。
そんな寒さを吹き飛ばすような、学生達のエネルギーがこの季節にケンブリッジではじける。
この2つのレースは何の関連もないのだが、ケンブリッジ大学の30余りあるカレッジの対抗戦で、
学生達は自分の属するカレッジの名誉をかけて、大いに燃えるのである。

写真左のカレッジ対抗ボート・レースは“レント・バンプ”と呼ばれ、水まだ冷たい2月下旬から3月にかけて
ケム川上流で繰り広げられる伝統のレースである。 バンプ・レースとは各カレッジのエイトと呼ばれる
8人漕ぎのボートが、ケム川に等間隔で縦一列に並び、大砲の轟音とともに、 一斉にスタートする。 
約2キロの川筋を全力で疾走しながら、前のボートに追突させる勇壮でユニークなレースである。
このバンプ・レースは年に2回行われ、6月の試験が終った後に開かれるのは“メイ・バンプ”とよばれる。

写真右はカレッジ対抗ベット・レースである。レント・タームに学生達が主催する チャリティー活動の
一つで、学生達によれば、由緒正しい伝統のレースだそうである。 各カレッジの有志メンバーは
古いベットを探してきて、そのフレームに車輪やハンドル、 押す為のバーなどを思い思いに取り付ける。
3月始めのとある日曜日の朝、学生達はそのへんてこなベットを押しながら街に集結する。
ベット・レースは街中のコースを「ベット」を押して全力で走り、各カレッジごとに3周したタイムを競う。
チャリティー活動とはいえ、一番楽しんでいるのは学生達であることは、間違いない。



 早春、数日間にわたって繰り広げられる“レント・バンプ”は、まだ寒い川筋を熱狂の渦に巻き込む。
前のボートに連日追突させて勝利したボートは、最終日誇らしげに旗を掲げ川面を“凱旋航行”する。



 ベットの原型をとどめないほど改造された“走るベット”は手押しで爆走?する。 日曜の朝とは言え、
交通規制しないので車の合間を縫って走る。 以前に無謀な走りをしたとかで罰金を払わされた事もある。



あの“幻想の冬景色”は、もう見られないのだろうか?





これらのケンブリッジの冬景色は1991年に私が撮影したものである。
山がないので大雪が降ることはないが、最高気温が約1週間氷点下に下がり、ケム川が凍った。
いわゆる、“寒波”の到来である。 イギリスは緯度の高さに比べて冬は暖かい。
これはメキシコ湾流がイギリスにぶつかっている為と、島国で典型的な海洋性気候だからと言える。
通常、北極圏からの寒気団はヨーロッパ大陸の方に流れるのだが、気まぐれにイギリス上空に
流れ込むと、イギリスの気温は一気に下がるらしい。

しかし、1991年以来このような寒波は経験していない。 かつて、数年に一度は寒波が
来ると言われていた。 25年のケンブリッジ滞在期間で、1991年以前にはこれ以上の大寒波を
1度ならず経験している。 ある年などは、最低気温の記録を更新して、ケンブリッジでもマイナス16度に
なったのだ。 しかも、2月の1ヶ月間の最高気温が氷点下以上にならなかった。

10年近くも暖冬傾向が続いている。これを即、地球温暖化に結びつけるには無理もあろうが、
地球の気候が急速に温暖化していると指摘する科学者は多い。
もしかしたら、このような冬景色はケンブリッジではもう見られないかも知れないのだ。
私のシルクスクリーン版画の題材は、かつてこのような冬景色が多かった。 
他の人には迷惑な話かも知れないが、もう一度この“幻想の冬景色”を心から堪能したい。
 


 気温が下がりケム川は凍る。川面に残された平底舟は漂う事を止め、人々は珍しい冬景色に見惚れ、
橋の上で歩みを止める。 おなかをすかせた水鳥達は、人の姿を見ただけで餌をねだって寄ってくる。



 
 
トピックス更新コラム

    

 『日本での展覧会を終えて、1月下旬にケンブリッジに帰ってきました。 空港に降り立った途端、
 あまりの暖かさにびっくりしました。 東京より暖かい! 2月初旬だというのにケム川では子供達が
 釣りを楽しみ、アトリエの前のティー・ガーデンではたくさんの人が、外のテーブルでお茶を飲んで
 いました。』 2000年2月某日 志村  




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