Web Site Photo Essay Series “
Shimura Hiroshi Cambridge Journal”

ケンブリッジ通信
  
第21号 ・ 2004年12
月25日発信 ・ 25 December 2004 Issue・ Vol.21



1975年以降、英国ケンブリッジに在住し、版画作家、映像作家、エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、
映像と文章で綴る ウェブ・サイト・エッセイ・シリーズ


発信元/写真・文・構成: 志村博



ケンブリッジ、星のXマス・イルミネーション

冬のグランチェスター・メドーに静かな白鳥


アーチャー邸、ウィンター・ガーデンの彩り



ケンブリッジ、星のXマス・イルミネーション





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近年、ケンブリッジの冬は暖かく、めったに雪も降らなくなった。 地球温暖化の影響かも知れないが、
暖流のお陰で、イギリスの冬は本来穏やかである。 日本から訪れた友人たちは、イギリスは寒いと、
口をそろえて異論を唱える。 ケンブリッジは北緯52度、カムチャッカ半島南端とほぼ同じ緯度にあり、
北海道よりも、遥かに北国であるが、“ホワイト・クリスマス”になる可能性は、
東京と同じくらいに低い。

しかし、ケンブリッジと東京の冬で一番異なることは、明るさである。 高緯度であるために日が短い。
日照時間も少なく、クリスマスに近い冬至の頃には、午後3時を過ぎると暗くなり始める。 そんな季節、
街々の中心部を明るく彩るのは、クリスマス・イルミネーションである。 これは宗教的な意味合いより、
冬季を明るくする演出する実効性にある。 11月に催されるクリスマス点灯式も、宗教色が薄くなった。

この街灯クリスマス・イルミネーションの設置やその経費は、ケンブリッジ市が地方税を使って行う。
地域の商店街などが、集客や商業活動の一環として、豪華さを競うのではなく、公共事業である。
市の予算が使われるため、税金の使われ方に関心がある市民たちによって、厳しい監視下にあり、
ここ数年、同じ
照明装置の使い回しで、変わり映えしなかった。 しかし、今年ついに動きがあった!



市中心部のマーケット広場と市庁舎のクリスマス・イルミネーションは、今年も例年とほとんど同じで、
2つある典型的なパターンの1つであった。 市民は見慣れているが、広場の全体がクリスマス的な、
雰囲気に包まれる。 この季節ならではの“売り物”が
八百屋さんや花屋さんの軒先にぶら下がる。
ヒイラギのドア飾りや、ヤドリギの枝、クリスマス・ツリーなど、伝統的で素朴なクリスマス飾りである。



今年の驚きは、広場より南側の“キングス・パレード”通りに初めてのクリスマス・イルミネーションが、
登場したことである。 星型のシンプルなライトが、街灯の柱に取り付けられた。 伝統的なカレッジが、
並ぶこの道は、中世の面影が色濃く残る。 街並みと重なり輝く星々の明かりは控えめだが、美しい。
夕闇が迫るころ、濃紺に変わる空の色とカレッジのシルエットに、星が輝きを増しながら重なってゆく。

マーケット広場に隣接した小路“ローズクレセント”は、カーブした狭い道で、ちょっと洒落たスポット。
この道にも、星と合わせたデザインのアーチ型イルミネーションが初登場した。 無用な派手さはなく、

落ち着いたバランスの良さに感心した。
本来の美しい街並みを、過剰な光の洪水で隠すことはない。
学園都市として世界的有名であるが、人口僅か10万の小さな街に、ささやかな“冬の煌き”である。



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冬のグランチェスター・メドーに静かな白鳥






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白鳥は、イギリスの水辺でどこにでも見られる一般的な鳥である。 飛ぶ鳥としては、最大の鳥であり、
首を伸ばし大きく羽ばたきながら、グランチェスター上空を低空飛行する姿は、いつ見ても迫力がある。
メドー散歩に出れば、必ず出会う相棒で、春から秋にかけて川岸に巣を作り、雛鳥を育てたりする姿を、
長年何気なく見ている。 この夏には、ピクニックの人たちから集団で食べ物を強奪する悪行も目撃した。

ケンブリッジ大学の古い記述から、カレッジなどで祝い事があると、フォーマル・ディナー“正餐”では、
白鳥料理が供じられていたことを知って、この鳥について様々な疑問が湧いてきた。 機会あるごとに
調べてみたら、意外にも知らないことが多い。 中世以降、白鳥に纏わる法律が次々と発せられたり、
テムズ川上流のクッカム(Cookham)町では、今も白鳥の嘴に印をつける伝統行事が行われている。

白鳥料理は20世紀の始め頃まで、普通に食べられていたらしい。 イギリスには、3種類の白鳥が、
生息しているが、圧倒的に数も多く渡りをしない大型の白鳥は、ミュート・スワン(Mute Swan)である。
私がいつも会うのもミュート・スワンで、“音なし白鳥”の意味となる。 そう言えば、鳴き声を聴かない。
調べだしたら、きりがなく興味深い。 このコラムに収まるような、単純なトピックではなかったが、、、

ここでは、冬の白鳥を紹介したいと思う。 ミュート・スワンは一年中グランチェスターにいる。 冬の間も
ほぼ同じメンバーで、時々飛来してきた新顔と一緒にいたりする。 純粋な草食性らしいが、散歩の
人が、気まぐれに色々な食物を与えると、何でも食べる
。 人や犬を恐れることはなく、かなり気が荒い。
ケム川の白鳥は保護されているが、管理されていない。 自由に移動しながら、営巣して雛を育てる。



冬景色の中に白鳥を見つけると、風景全体が、その動く白い点景をアクセントにして、息づいてくる。
冬のメドー散歩で、白鳥と出会わないと物足りない。 夏のメドーは、観光客やピクニックをする人たちが
大挙して押しかけ、自然の中に人々の歓声や騒音が響きわたる。 しかし、冬は訪れる人もめったになく、
静寂があたりを支配する。 ミュート・スワン(静かなる白鳥)は、そんな冬の
静寂を、破ることはない。



厳しい冬を乗り切るため、白鳥たちは良く食べる。 長い首を川底まで伸ばして、水草が養分を蓄えた
根などを引き抜いて食べる。 水面に尻だけを出して無用心だが、ここには白鳥を襲う天敵はいない。
牧草地に上がって一心不乱に草を啄ばんでいるときもある。 ひとしきり食べると、水辺で羽づくろいを
しながら消化している。 草を食んでは休む牛のようである。 冬のメドーは、最適の越冬地なのだ。



グランチェスター・メドーで、時々黒い白鳥を見かける。 この辺りに定住しているのはなく、ケム川の
上流域に生息しているグループの一部がやって来るらしい。 見ていると、ここに住む白鳥と争う様子も
なく、一緒に草を食べている。 黒い白鳥については、資料が少なくまだ良く分からない。 黒い羽毛と、
赤い嘴、とてもダンディーである。 もしかしたら、白鳥はこの鳥のアルビーノ(白色変体)なのだろうか?


アーチャー邸、ウィンター・ガーデンの彩り





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「ケンブリッジ通信」の11号では、“アーチャー家の愛するワンダーランド”、13号では“初秋の午後、
詩人が愛した庭に集う”、20号では“アーチャー家、寛ぎのサマー・パーティー”など、ミリオンセラー
作家ジェフリー・アーチャー邸の庭をテーマに、写真でも紹介してきた。 いずれも、夏季の庭である。
12月半ば所用でアーチャー邸を訪ねた。 うす曇で穏やかな初冬の午後、彼らの愛する庭を歩いた。

芝生は冬に枯れることはなく、常緑樹も多くの種類が植えられ、イギリスの庭は冬でも緑色が多い。
アーチャー邸の庭は、広いだけでなく変化に富んで面白く、いつも手入れが行き届いて素晴らしい。
庭のあちらこちらには、個性的なオブジェや彫刻が配置されていて、夏とは違う表情を見せている。
僅かの間に新顔のオブジェも加わり
、相変わらず賑やかである。 アーチャー邸冬庭散策を楽しんだ。

庭内は、いたる所で夏季とは違う色彩が見つかる。 ティー・ガーデン寄りの庭にある西洋カエデの
落ち葉が芝生の緑に美しく散り積もっていた。 風がないので、幹を中心に、放射状に重なっている。
しかも、空気が乾燥していないので、鮮やかな色彩がそのまま保たれ、葉もしなやかなままである。
ストロベリー・ツリーの木には、赤や橙色の不思議な果実が鈴なりについている。 緑と対比が良い。

今年のサマー・パーティーの時、茂みの中で見つけた新顔の電話ボックスや彫刻の野うさぎたちは、
葉が落ちて明るくなった木々の中で存在を誇示している。 池の端に座る少女や、庭の隅にうずくまる 
青年の彫像は、冬でも同じ格好なのでちょっと寒そうだが、
白いカエルや羊飼いは、悠然としている。
水辺に聳える“トチノキ”の大樹は葉を落とし、静まりかえる
。 冬のワンダーランドに足を踏み入れた。



今年の2月にアトリエの引越しするまでは、歩いて道を横切り、反対側のアーチャー邸を訪れていた。
今は、事前に連絡をしてゲートを開けておいてもらい
、車でフロント・ガーデンの車寄せに乗り入れる。
いつか、雪が積もったウィンター・ガーデンを撮影したいと思っているが、わずかの積雪で道路交通が
完全にマヒしてしまうイギリスであるから、果たして絶妙の撮影タイミングで、たどり着けるだろうか?


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