ケンブリッジ通信 22号  発信:志村博  フォト・エッセイ・シリーズ Cambridge Journal

第24号 ・ 2005年9月25日発信 ・ 25 September 2005 Issue・ Vol.24



1975年以降、英国ケンブリッジに在住し、版画作家、映像作家、エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、
映像と文章で綴る ウェブ・サイト・エッセイ・シリーズ





ケム川“狂騒”、ケンブリッジの暑い夏




休耕した畑に“初秋の原野”が広がる




長久手日本館で“光の森”に包まれる









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ケンブリッジ市の中心で、伝統的なカレッジが建ち並ぶ辺りや、街から、ケム川を遡った上流域は、
何百年も変わらない風景が、今日も続いている。 しかし、“ケンブリッジ”は、この十数年で、急激に
変わったことがある。 長い年月を、世の趨勢や、俗世間とは一線を画し、頑固に伝統を守り、崇高に
独自性を保ってきた“ケンブリッジ大学”ではあるが、押し寄せる観光客の大群には、勝てなかった。

世界的な“学園都市”から、“観光都市”へ! 街の雰囲気は、80年代後半以降、すっかり変わった。
特に7月から9月、“観光シーズン”の最盛期は、それまでの“ケンブリッジ”とは、隔世の感がある。
それ以前、観光客から“入場料”を徴収するカレッジは一つもなく、夜間以外は、出入り自由だった。
街中で、案内ボードを持ち、誰彼かまわず声をかけるパント・ツアー(ケム川観光)勧誘も、なかった。

夏休み期間中、観光シーズン真っ盛りでも、のんびりとした雰囲気が、街やカレッジには漂っていた。
しかし、今日、騒がしいほど、賑わっている。 ケム川沿いを歩けば、必ず“パント・ツアー”の勧誘が、
声をかけてくる。 この数年の現象であるが、去年の夏、地域の大きな社会問題になり、今年はかなり
自粛しているようだ。 それにしても、ケム川から眺める景観は素晴らしく、観光客の人気は衰えない。


現在、ケンブリッジ市内のケム川で営業している“貸しパント・ボート”の数は、飽和状態で、これ以上
増やすことはできない。 夏の間、“カナル・ボート”などが、中心部へ航行することも、規制されている。
様々な対策がされているが、ケム川の過密状態は、相変わらずである。 近年、温暖化?の影響か、
夏の気温が高く、外部からの観光客だけでなく、地元の人たちも、ケム川で涼を楽しむようになった。


暑い日には、川に飛び込む人も多く、川遊びも“過激”になった。 数年前までは、ケンブリッジ市が、
「健康上のリスクがあるので、ケム川に飛び込まないように!」と、注意を喚起していたが、最近は、
聞かない。 飛び込んでも平気なほどに、浄化されたのだろうか? 病気になったという話も聞かない。
“清流”ではなくても、どんなに騒がしくても、ケム川は、暑い夏の日、水と戯れる最高の場所である。



夏の間、平日・休日に関わらず、雨が降ってさえいなければ、観光客たちで、ケム川は賑わっている。
パント(平底舟)同士が、ぶつかるのは普通で、混み過ぎて、渋滞することも珍しくない。 バランスを
くずして、漕ぎ手が川に落ちることはあるが、ふざけて飛び込んだり、ボートをひっくり返したりもする。
特に暑い日は、川に突き出した木から、皆で飛び込む。 陽気に浮かれて、川面は大変な騒ぎである。



ケンブリッジから、ケム川上流のグランチェスター周辺は、メドーを縫うように、自然の川が流れる。
普段は、静かで、平和な田園風景が広がり、かつて、文人や科学者が瞑想に耽った場所であるが、
暑い夏の日、牧場の川岸は、ちょっとした“お祭り騒ぎ”のように賑わう。 日光浴やピクニックをする
だけでなく、ついには川に飛び込む。 1日中歓声が上がり、“夏のビーチ”のような光景が展開する。








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「ケンブリッジ通信」23号で、“花の饗宴”休耕した畑に競う作物と野草として、近くの畑野を紹介した。
その後、この畑に次々と変化が起こったが、予想に反し、9月下旬の現時点で、まだ耕されていない。
6月中旬の「ケンブリッジ通信」23号発信の直後に、農業トラクターで“除草剤”が、撒かれたらしい。
散布現場を、見ることはできなかったが、トラクターが走った跡が残り、草原がゆっくりと枯れ始めた。

季節が、初夏・晩夏・初秋と移行する中で、その後の休耕畑の変化を、時折り観察しながら秋になり、
ついに 「ケンブリッジ通信」24号発信の時期になった。 その間に、3回日本行きのため不在の時期が、
あった。 毎回、日本から戻ると、すぐにこの畑に出かけ、 耕されていない野原を見て、ホッとしていた。
1度は消えてしまった“作物と野草の花畑”が、初秋に奇跡的な復活をするまでの“ダイアリー”である。


6月

“除草剤”を撒かれたらしい休耕畑は、ゆっくりと茶色に変わっていった。 畑のすぐ外側は緑色が残り、
その
変化を比較できた。 しかし、除草剤の効き方は緩慢で、劇的な変化ではなく、“アザミ”が萎れて、
麦などは、実ったようにうす茶色に変わった。 “ダイオウ”も、そのまま種をつけて立っている。 枯れない
株もあって、まだらの枯野が出現した。 6月下旬は、自然の草原も、種をつけて茶色になる季節である。



7月

“除草剤”の効き目は明瞭になってきたが、そのまま何も起こらず、1ヵ月が経過した。 立ち枯れの麦や、
菜種、ダイオウの間に、除草剤の影響を受けなかった“ヤナギラン”やキク科の野草などの若株が育つ。
全体的にうす茶色の配色に、所々緑色や、ダイオウのこげ茶色、紅葉した?赤い葉が、点在している。
なぜ、このタイミングで除草剤を撒いたのか?不可解で、このまま、元の草原に、戻りそうな勢いである。



8月

8月になったら、草が刈られた。 いつ、どのようにして刈られたのか分からない。 所々に刈り残しがあり、
全く手つかずの場所もある。 かなり、雑な仕事で、その目的も不明。 8月の後半から、“ヤナギラン”が、
咲き始めた。 運良く刈られなかった若い株が、赤紫の可憐な花を次々咲かせ、草原に鮮やかな彩りが、
戻ってきた。 昆虫たちの活動も盛んで、トンボや“クマンバチ”が飛び、くもの巣が夕日にキラキラと輝く。



9月

赤紫の“ヤナギラン”は、9月になっても咲き続けていたが、黄色い花が増えてきた。 なんと!春の花?
“菜の花”が、いたる所で咲き始めたのである。 “ハルジョオン”のような黄色の小花も、咲いては次々と
綿毛ような種を飛ばしている。 早咲きの“ヤナギラン”も綿毛の種を飛ばし、黄色と白の、明るい配色が、
草原に広がった。 9月は、草の緑色が鮮やかに変わる季節。 秋になり
、春めいた風景が広がり始めた。







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この
「ケンブリッジ通信」24号を、まさに発信しようとしている今この時、2005万博「愛・地球博」が、
半年に及ぶ会期を、終了しようとしている。 予想以上の動員数で、成功裏に閉幕を迎えたようだ。

8月から9月にかけて、日本に行った際に、急に思いたって
「愛・地球博」に出かけた。 覚悟はして
いたが、 大変な人出で
、3時間近くも残暑厳しい夏日に並び、ついに、“長久手日本館”に入った。

“地球の部屋”と呼ばれる、「360°全天球映像」を、体験することが、目的であったが、あまりにも、
球体内に入る人が多すぎて、全天球映像を堪能するまでは、いたらない。 もしも、できることなら、
1人だけ、球の中心に立って体感したかったが、無理な話である。 スターライト・ドーム“満天”で、
半球映像CGプログラムを、多く見てきたが、その大きさで、CGの解像度もあったら、すごいと思う。

“人と自然”をテーマにした数々の展示を見て、最後のセクション「ゾーン3・プレゼンテーション」に、
到達した。 〜自然の息吹/生命のきらめき〜がテーマの広い森空間?に、
突然、放り出される。
長い待ち時間、見落とすまいと、緊張しながら通り過ぎた展示の後で現れた、寛ぎの時空である。

そこには、列もなく、時間で追い立てられることもない。
開放感に溢れ、ひんやりと涼しく心地よい。

森をイメージした空間は、床が柔らかく、若干の起伏もある。 歩くとブナの森を散歩しているような
感覚が足に伝わってくる。 樹木をイメージしているのは、ボール紙で筒状のものが、組まれている。
普通の照明下で見たら、変哲のない、雑然とした空間なのだろうが、色光による照明、映像投影、
レーザー光などで、森の1日を感じるような演出がされていて、音響・霧・風が、より効果を高める。

私は、この色彩・光線を中心とした“演出
プログラム”の技に、感銘した。 刻々と変わる光演出は、
絶妙なテンポと、多彩さで、飽きさせず疲れさせない。 長い時間、この空間に留まり、心行くまで、
体を休めながら、撮影も楽しんだ。
長久手日本館の中に、2時間近く居ただろうか? 外に出たら、
残暑も弱まり、陽は西に傾いていた。
日程で無理をしたが、今回の万博に来れて良かったと思う。



全天球映像スクリーンの球形が、地球のイメージで森の空間に浮び、その表面にも、映像や色光
投射され、光の演出のポイントになっている。 光や映像による表現は、 多彩を極め、意外な速さで
変化している。 カメラのシャッターを押し続けるが、同じ映像がない。
色々な意味で、勉強になった。
この後、時間の許す限り会場を歩き、パビリオンを覗き、お祭り騒ぎの万博
「愛・地球博」を楽しんだ。








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