ケンブリッジ通信 22号  発信:志村博  フォト・エッセイ・シリーズ Cambridge Journal

第25号(最終版)・ 2005年12月31日発信
31 December 2005 Issue・ Vol.25 (the Last Issue)



1975年以降、英国ケンブリッジに在住し、版画作家、映像作家、エッセイストとして
創作活動を続ける志村博
が、
映像と文章で綴る ウェブ・サイト・エッセイ・シリーズ





ケンブリッジ、冬の明りが灯る街とカレッジ




“菜の花”が咲き続ける畑野よ、永遠なれ!




高度1万m上空、赤外線で覗く“雲模様”










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イギリスの冬は暗く長い。 冬至近くになると、午後4時には、すっかり夜の帳が下りたように暗くなる。
しかし、人々の営みは、日没とともに終ることなく続く。 冬のケンブリッジで、“
積雪”はめったになく、
雪の明るさで、街が映える光景は、なかなか見られない。 旧市街や、街中に点在する“カレッジ”は、
控えめの照明で、街灯も、街並みやカレッジの伝統的な建物群に調和するように、設置されている。

 特に、冬の一番暗くなる時期の街角を、明るく彩るのは、クリスマスイルミネーションの灯りである。
今年も、11月半ばから点灯され、クリスマス・ムードを醸す。 市庁舎のイルミネーションは、今まで、
使い回しが多かった中、新しいデザインが登場した。 光の滝のような単純なデザインだが、10年程
2通りのパターンが繰り返されていたので、新鮮だ。 キングス・パレード通りの“星”は、去年と同じ。

キングス・カレッジ構内は、街へ行く度に必ず立ち入るのだが、日が短くなり、暗くなって歩くことが、
多くなった。 コート(中庭)には、伝統的な意匠の照明灯が適度な間隔で並び、緑の芝生を照らす。
チャペルやコートに面した建物から、光が漏れ、学生や教官たちは、まだ活動しているらしいことが、
感じられる。 冬のケンブリッジも、暖かい色調の灯りに照らしだされると、独特の情緒が湧いてくる。



冬至を過ぎると、段々と日が長くなり、日没時間も遅くなってくる。 クリスマス・イルミネーションは、
1月上旬頃まで、点いているが、クリスマス前と比べると、夕方の明るさが、明確に強くなってくる。
イギリスの冬は穏やかでも、春の訪れは、ゆっくりである。 気温の上昇は鈍く、いつまでも、寒い。
しかし、光の変化は著しく、光に反応する早春の花々も、気が早いくらいに、寒い時期から開花する。






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「ケンブリッジ通信」23号、24号と、わが家の近くの休耕した畑野を、紹介してきた。 まさか、25号でも
テーマになるとは、思ってもいなかった。 最後に作付けされたのが、2年前の秋だった。 去年の秋に、
記録的な大雨で、麦の収穫に影響があった。 部分的に刈り取られ、それ以降、休耕(放置?)された。
今年の秋、畑は耕され、新たな作付けが行われると思っていた。 ところが、何も起こらず、年末に至る。

2005年の秋は、イベントもあり、毎月のように日本へ行っていた。 東京から戻ると、この畑野へ様子を
見に行った。 まだ耕されていないことに、驚きながら野を歩き、もっと驚く光景を目にすることになった。
なんと、“菜の花”が咲き続けたのである。 10月は、秋の花々と一緒に咲き乱れ、11月は、異常な
冷え込みに、花を凍らせながら、12月は、突然の積雪にもかかわらず、春の花は、平然と咲いている。


10月中旬



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今年の10月は、やや雨が多く、気温も高めで霧も出た。 9月まで、盛んに咲いていたアザミやキク科の
花々は姿を消して、菜の花だけが、鮮やかな黄色を、野に散りばめている。 一面に咲く“菜の花”は、
傾きかけた秋の夕日を受け、橙色に輝き、霧の中では、白と同化するような淡い色彩を、野に配する。
この頃はまだ、春の花が、温かい秋の陽気に、気まぐれの“狂い咲き”をしてるだけだと、思っていた。






11月下旬



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11月前半の六本木ヒルズ“ハートランド”での「映像・展示イベント」を終えて、ケンブリッジに戻ると、
突然の“冷え込み”が待っていた。
天気が良く、雲ひとつない夜空への放射冷却が起こり、未明の
気温は、氷点下に下降した。 空気中の水蒸気は、“菜の花”に凍りつき、砂糖菓子のような状態で、
朝日を浴びる。 まるでおとぎ話のような光景だった。 これで、“菜の花”の狂い咲きは終ると思った。






12月下旬




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日本で、2006年カレンダーのためのイベントが12月にあり、クリスマス直前、ケンブリッジに戻った。
今年のクリスマスは暖かく、イギリスは全国的に“小春日和”になった。 野に出て、意外な光景に、
目を疑った。 なんと“菜の花”は咲き続け、蜂が花々を飛び周っている。 正に「春の風景」だった。
クリスマスが終り、急に小寒波が来て、突然の積雪があった。 雪の中でも、菜の花は咲き続ける。



この“菜の花”たちは、このまま年を越すのだろうか? つぼみもたくさんつけているし、若い苗もある。
この畑は、休耕して自然の野原に戻り、四季が一巡して2年目に入った。 そして、来年も、このまま、
“ワイルド・フラワーの園”として、残るのだろうか? 去年の年末は、咲いていたのたろうか?
来春も、
このまま続きそうな勢いである。 自然に任せると、“菜の花”は1年中花をつける植物かも知れない。






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今年、夏の時期に、赤外線フィルムを装着した一眼レフカメラを持って、日本との往復を数回した。
目的は、空から赤外線写真を撮るためで、往復のフライトで、機内に持ち込み、チャンスを待った。
「ケンブリッジ通信」22号でテーマにしたが、私が使用している赤外線フィルムは、今年の春に、
製造が中止になり、手持ちのストックも少なく、使用期限も過ぎてしまった。 最後に何を撮るか?


ケンブリッジや、
ランチェスターの赤外線風景は、長年撮影をしてきたので、最後のフィルムで、
上空から撮影をすることにした。 実は、今から35年前、初めて飛行機に乗って、アメリカ西海岸へ
行った時、太平洋上空で、小さな窓からの雲シーンを、赤外線フィルムで撮影した。
その写真を、
当時、デザイン学生だった私は、様々な作品に使用した。 私にとって、赤外線写真の原点だった。

数年前頃には、飛行機からビデオ・カメラを使って、赤外線映像で風景を捉えていた。 フィルムは、
ビデオ・カメラとは違う。 今までの経験から、感光する波長を考えながら、色々な設定で、様々な、
雲の光景を撮影してみた。 デジカメに慣れてしまって、結果がすぐ見られないことが、もどかしい。
めったにする機会がなくなった“現像作業”を、慎重に進めながら、最後の赤外線撮影を楽しんだ。



想像したように、肉眼では見えない不思議な世界が、赤外線フィルムに記録されていた。 青い空は、
暗黒空間に変わり、海と陸の境界線や、河川が、はっきりとしたコントラストで浮ぶ。 そして、何より、
白雲が、質量を持った立体彫刻のように、地表を覆い、林立する。 それは、地上から見る光景とは、
全く異なり、夢で見る、壮大なスケールの“異次元空間”のようで、“ブロッケン現象”まで写っている。






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