Web Site Photo Essay Series “Shimura Hiroshi Cambridge Journal”
志村博のケンブリッジ通信

第 6号 ・ 2001年2
月7日発信 ・ 7 FEBRUARY 2001 ・ No.6








中世ウール・タウンとケンブリッジ大学の深い関係


去年から3週間以上に渡った“東京・池袋サンシャイン世紀越え展覧会”がやっと終了し、
その直後、予定していたTV番組のスタジオ収録も慌しく済ませ、1月下旬イギリスに帰って来た。
その番組タイトルは『栄枯盛衰“羊毛産業”が残した街』であった。 ケンブリッジから約35キロの
サフォーク
州に点在する4つのウール・タウンをテーマに歴史的な産業構造の変化を考察した。

クレア、カベンディッシュ、ロング・メルフォード、レベナム、中世の面影を残す街並や教会を舞台に
当時のハイテク産業であった羊毛産業の栄枯盛衰のドラマを映像で紹介した。この地域は
中世に生産量を増した羊毛を原料に、革新的な毛織物技術によって新製品を生み出し、
ヨーロッパ大陸にも輸出するほど繁栄を誇った。 この地の羊毛産業は15世紀にピークに達する。

TV番組の中では、時間の関係で触れることは出来なかったが、4つの街のうち2つの街は
ケンブリッジと縁が深い。 ケンブリッジ大学の歴史的なカレッジのひとつ“クレア・カレッジ”はこの地の
領主だったクレア伯爵家からの資金により14世紀に再創設されその名前がカレッジにつけられた。
羊毛産業で蓄えた莫大な富は教会だけでなく、教育にも惜しみなく注がれたのである。

カベンディッシュの名前は世界的な名声を誇るケンブリッジ大学の物理学研究所につけられている。
最近調べていないので正確な数はわからないが、この研究所のノーベル賞の数は50を下らない。
カベンディッシュ公爵家は中世の頃から、世界一周の航海するような活動的な領主だったらしい。
その末裔ヘンリー・カベンディッシュが19世紀に資金を出し“カベンディシュ研究所”を創設した。

ケンブリッジ大学はその歴史の中で王家だけでなく、近郊のハイテク産業の支援もあったのだ。

2001年2月7日 志村博  グランチェスターのアトリエにて、



隆盛を誇ったこの地の羊毛産業は周辺の小さな村々まで浸透していった。 繁栄は美しい町並や
立派な教会をつくり出した。 家々の外壁はパーゲティングと呼ばれる漆喰のレリーフで飾られていた。 
それらの一部は今日も当時のまま残されている。 まるでビスケットの模様のようで面白い。



時空を越えた異次元、伝統のカレッジ夜空間






以前も紹介したが、ケンブリッジ大学は伝統的なカレッジ制度を持ち、学生や教官達は
カレッジ内で共に学究生活を送っている。 ここでのカレッジすなわち学寮は生活の場所なのである。
ケンブリッジ大学は700年以上の歴史をもち、カレッジも長い歴史をもつところが多い。
街の中心部に点在する歴史の古いカレッジは風格のある歴史的建造物を現在も使っている。

それらの建物の中で、学生達は生活をしているのである。 もちろん、近代的な建物もあるのだが、
古い建物の方が部屋は広くカレッジの中心に位置して、概ね成績優秀者が、優先的に入居出来る。
そんな歴史的カレッジの夜の世界はタイムスリップをしたような、不思議な雰囲気に満ちている。
コツコツと足音の響く中世の回廊を歩くとき、慌しい現実社会から隔離された異次元にワープする。



大学創立以来、つい100年位前まで、カレッジの学問は神学を中心に構成されていた。
カレッジの歴史的建造物が中世の修道院を彷彿とさせるのは当然かもしれない。 
照明は控えめで薄暗く、長い回廊や中庭を歩く時、ふと中世の世界に迷い込んだ錯覚に陥る。



カレッジ建物の典型的な形は上から見ると“口”の字の形をしている。コートと呼ばれる中庭を
取り囲むように学生や教官の部屋が並んでいる。
階上の学生の部屋から中庭を見下ろすと、
勉学に励む学生や談笑する教官達など、夜のカレッジ・ライフが垣間見える。



コーンウォールの断崖絶壁から見た海・空・雲そして夕日






取材も兼ねてコーンウォール半島へ頻繁に出かけた時期があった。季節ごとに行っていたのである。
ケンブリッジからはロンドンを迂回して延々と高速道路をひた走り、半日以上かかる長旅である。
イギリスの地図で言うと左下に長く突き出た大きな半島であるが、地形的にも文化的にも
興味ある土地柄でケルト文化とゆかりが深く、アーサー王伝説も多く残っている。

10年以上も前の事だが、アーサー王伝説を追ってティンタジェルという海岸線の小さな町に至った。
その町から海岸線に沿って道なき道の悪路を行った時、突然目の前が開け絶壁の突端に出た。
まさに、夕日が大西洋に沈んで行く瞬間だった。 その荘厳な美しさに、吹き付ける海風にも
かかわらず、しばし見とれた。それ以来、時間を見計らっては夕日を見にその断崖に立った。

この断崖絶壁の突端にはステージのようになった岩盤があり、その上に座り夕日を眺めるのである。
ここは町からも離れているし、途中はかなりの悪路なので、ほとんど他の人とは出会わない。
ブリストル湾に
出入りする大型船はこの海域を通らないのだろう。また、 この一帯は絶壁が続き、
港がないために船影を見ることはない。そのため、純度の高い?夕景を見ることが出来るのである。



私の作った今年のオリジナル・カレンダーはこの海の夕景がテーマになっている。
最近、海をテーマにしたシルクスクリーン版画作品も再び作り始めたのだが、基本的なテーマは
自然の中にある“光のドラマ”であり、以前の“森の光”のテーマとも共通している。


 

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